【書評】選ばれなかった僕の戦い方 田中パウロ淳一

【書評】選ばれなかった僕の戦い方 田中パウロ淳一

『選ばれなかった僕の戦い方』田中パウロ淳一

Jリーガーとしてよりもインフルエンサーとしての知名度が勝る田中パウロ淳一選手の著書です。サッカーの素人である女の子が、プロサッカー選手のようなプレーをする動画などで、彼の姿を目にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

高卒で強豪・川崎フロンターレに入団するも、3年契約を1年で自ら解除して海外へ渡るもすぐに帰国してJ3のチームへ。順風満帆なエリート街道を歩んできたわけではありません。本作では、彼がいかにしてプロの世界で生き残り、SNSを武器にして自らの価値を高めてきたかが描かれています。

この手法について、「目立つのが好きで、発信も好きなパウロ選手だから出来た」と思われているかもしれません。しかし、パウロ選手であっても、今のような発信をすることに抵抗がなかったわけではということが書かれています。

「パウロ」という名前に込められた自己プロデュース力

この本を読んで、今のパウロ選手をつくりあげたのは、自らをプロデュースし、アピールするという姿勢だと感じました。そもそも、「パウロ」というのは、本名ではなく、高校時代からのあだ名でした。しかし、J2でプレーする際、少しでも目立つために、あえて自分から登録名として申請したのです。

彼のこうした行動の原点には、大阪桐蔭高校時代の指導者からの教えがあります。「一発目から魂を見せる」「目の前のプレーを流さない」という言葉を胸に、一度しかないチャンスでいかに強いインパクトを残すかを常に考え続けてきました。
高校3年生の時には、点を入れた後にアニメ『NARUTO -ナルト-』のパフォーマンス等をしており、それが結果として、スカウトや周囲の目をひくきっかけになったと語っています。

サッカーを知らない層へ届けるためのSNS戦略

彼がSNSに注力し始めた最大の理由は、「サッカーを知らない人たちに自分を、そして競技を知ってもらうため」でした。

J1の一部トップチームであれば、プレーしているだけで全国ニュースになりますが、下のカテゴリーとなると状況は一変します。パウロ選手は29歳の時にJ2チームから声が掛からなくなり、当時関東1部リーグ(J5相当)だった栃木シティFCに移籍しました。ここでは、どれだけピッチで結果を出しても、身近な人以外の世間には届きません。だからこそ彼は、あえてサッカーファン以外にも刺さるエンタメ性の高い動画を投稿し続けました。その結果、今では小学生たちが彼の顔を見て「パウちゃんだ!」と声をかけてくるほどの知名度を獲得しています。

「練習しろ」という批判と、自分の人生への責任

アスリートがSNSでの発信を始めると、必ずと言っていいほど「そんなことやってないで練習しろ」「ふざけている」という批判の声があがります。SNSのDMでもたびたびそういったメッセージが送られてきているようです。パウロ選手も例外ではなく、以前所属していたJ2のチームでは「SNSでの発信を控えるように」と注意されたこともあったそうです。

しかし、彼は「自分の人生の責任は、他人は取ってくれない」という強い覚悟を持っていました。監督やコーチの言う通りにして結果が出なかった時、彼らが自分の引退後の人生まで面倒を見てくれるわけではありません。幸いにも、移籍先の栃木シティFCは社長がSNS発信を容認・後押ししてくれる環境でした。彼はその期待に応えるようにピッチ上でも大活躍し、チームをJFL、J3、そしてJ2へと3年連続で昇格させる立役者となりました。J3ではMVPも取りましたが、これはSNS等での発信が本人のメンタル等に大きくプラスに働いたのは間違いないでしょう。

マイナースポーツや若手アスリートの「生存戦略」

本書が示すメッセージは、サッカー界にとどまりまらないのではないかと思います。娯楽が多様化した現代では、野球などのメジャースポーツでさえ、全国的な知名度を持つ選手はほんの一握りです。

サッカーというメージャーな競技の選手でさえこれだけの発信をしているのですから、マイナーと言われる競技の選手は、そのことを重く考える必要があるように思います。
何も、パウロ選手のような突飛な発信をする必要があるわけではありません。ファンは、選手が思っている以上に選手の人間性を知りたいと思っていますが、クラブやチームによる発信はまだまだ多くありません。たとえば料理好きであるとか、ゲームが好きであるなど、競技以外のフックを発信することは、ファンになることのきっかけにもなりますし、そのことを将来的にその分野のイベントに呼ばれるなど、引退後のキャリアに直結することもあります。

おわりに

本書は単なるプロサッカー選手の自伝ではなく、アスリートにとって「自己プロデュースの教科書」となりうるものだと感じました。テレビというメディアの影響力が低下し、誰もが発信者になれる現代において、SNSは才能や実績にかかわらず、誰もが平等に使える武器です。

「自分の競技をもっと広めたい」「応援してくれるファンを増やしたい」、あるいは「引退後のキャリアに不安がある」。そう少しでも感じているなら、この本は読んでみることをおすすめします。
あなたにしかできない発信を待っているファンは必ずいます。

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