「自分は天才ではない」から始まる生存戦略。『こうやって僕は戦い続けてきた』菊池雄星

「自分は天才ではない」から始まる生存戦略。『こうやって僕は戦い続けてきた』菊池雄星

こうやって、僕は戦い続けてきた。 「理想の自分」に近づくための77の習慣 菊池雄星
podcast「スポーツと読書」でとりあげています。
stand.fm
apple podcast

世界最高峰の才能が集まるメジャーリーグ(MLB)。その過酷な競争社会において、菊池雄星投手は近年、コンスタントに年間160イニング近くを投げ、先発ローテーションを守り続けるという、非常に安定した実績を残しています。

2026年3月に刊行された著書『こうやって僕は戦い続けてきた 理想の自分に近づくための77の習慣』は、彼がいかにしてメジャーリーグという大舞台で確固たる居場所を築き上げたのか、その思考法と実践を余すところなく明かした一冊です。

トップアスリートの自伝と聞くと、「天賦の才」や「超人的な努力と根性」の物語を想像するかもしれません。しかし、菊池雄星選手の強みは、驚くほど冷静で客観的な自己分析と、徹底した合理主義です。本書はスポーツの枠を超え、変化の激しく不確実性の高い現代を生きるビジネスパーソンにとって、極めて実践的な「働き方の指南書」として読むことができます。その魅力と読みどころをいくつかご紹介します。

1. 「自分は特別ではない」という痛みを伴う自己認識

菊池投手といえば、高校時代から甲子園を沸かせ、6球団がドラフトで競合した誰もが認めるエリート選手というイメージを持つ人も多いでしょう。しかし、彼自身は本書の中で「自分は決してスペシャルな才能を持っているわけではない」と、冷静に自らの現在地を語っています。

プロ入り当初は成績が伸び悩み、大きな挫折も味わいました。プロの世界には、独特の感覚や圧倒的な身体能力だけで軽々と結果を出してしまう「本当の天才」たちがひしめいています。そこで彼は、「天才たちと同じアプローチをしていては、自分はこの世界で生き残れない」と悟りました。

2. 完璧主義を捨てる「理想は高く、期待は低く」

本書の中で、最も多くのビジネスパーソンの胸に刺さるのが、このメンタルコントロール術でしょう。菊池投手は、自らのマインドセットを「理想は高く、期待は低く」という言葉で表現しています。

野球はそもそも「失敗のスポーツ」です。どんなに優秀な投手でも、打たれるときは打たれますし、失点もします。菊池投手はデータを引き合いに出し、「メジャーリーグの1試合の両チーム平均得点は約4.5点である」と説明します。つまり、先発投手が6回を投げて3失点に抑えること(クオリティ・スタート)は、統計上十分に「合格点」なのです。

しかし、多くの人は「絶対に無失点で抑えたい」という高すぎる「期待」を自分に課してマウンドに上がってしまいます。その結果、少しでも想定外のヒットを打たれたり失点したりするとメンタルが崩壊し、本来のパフォーマンスを発揮できなくなってしまうのです。

3. 野球は「冬のスポーツ」。すべては準備で決まる

また、菊池投手は「野球は冬のスポーツだ」という考え方を提唱しています。シーズンは春から秋にかけてですが、実はオフシーズンである冬の間に、いかに自分の体と向き合い、知識をインプットし、周到な準備を整えられるかが、シーズン中の結果をすべて決定づけるというのです。

彼はただがむしゃらに体をいじめるような、かつての精神論に基づく猛練習を良しとしません。読書家としても知られる彼は、栄養学をはじめとする多種多様な本を読み込み、科学的で効率的なアプローチを常に取り入れています。「練習すればするほど上手くなる」という思い込みを捨て、休むべき時は休み、質の高いトレーニングに集中するという姿勢を徹底しています。

4. 異文化の活用と、プロとしての「要求」

メジャーリーグという過酷な移動と異文化に囲まれた環境への適応力も必見です。

例えば、アメリカの球場のクラブハウスには礼拝のための「チャペル」があり、牧師が常駐していることが多いそうです。菊池投手はこれを単なる宗教施設としてではなく、メンタルケアや頭の整理を行うための場として積極的に活用しています。自分ひとりで抱え込まず、利用できる外部のシステムは素直に頼る。その柔軟性が、過密スケジュールのなかでのメンタルの安定に繋がっています。

さらに、球団との契約交渉におけるエピソードも非常に興味深いものです。彼は年俸などの金銭面だけでなく、「遠征先のホテルには必ずバスタブ付きの部屋を用意すること」や「専属トレーナーを球場に出入りさせること」など、自らが最高のパフォーマンスを発揮するための「環境」を絶対条件として要求しています。

結び:戦い続けるすべてのビジネスパーソンへ

『こうやって僕は戦い続けてきた 理想の自分に近づくための77の習慣』は、自らを天才ではないと自認する人間が、いかにしてデータを読み解き、不要な完璧主義を捨て、徹底的な準備と工夫で世界最高峰の舞台を生き抜いているかを記した、極めてロジカルな一冊です。

一部の限られた天才たちによる「極端な成功法則」ではなく、泥臭くも確実に前へ進み、コンスタントに価値を提供し続けるための「最適解」がここにはあります。

日々の業務で壁にぶつかっている方、プレッシャーで心をすり減らしそうになっている方、あるいはキャリアの次の一手で悩んでいる方。菊池投手の紡ぐ77の習慣は、そんなあなたの心に静かな火を灯し、明日からの働き方や生き方を劇的に変えるヒントを与えてくれるはずです。

スポーツを行う皆様のために。スポーツに関するお悩みはなんでもご相談ください。 お問い合わせフォーム