日本野球連盟(NPB)統一契約書の解説(前半)
日本野球連盟(NPB)が定めている統一契約書(2018年版)の内容を解説致します。
第1条(契約当事者)
第2条 (目的)
第3条 (参稼報酬)
第4条(野球活動)
第5条(非公式試合の報酬)
第6条(支払の限界)
第7条(事故減額)
第8条(用具)
第9条(費用の負担)
第10条(治療費)
第11条(障害補償)
第12条(健康診断)
第13条(能力の表明)
第14条(トレーニングの怠慢)
第15条(振興事業)
(16条以下は、後半で解説)
第1条 (契約当事者)
[球団会社名](以下「球団」という)と[選手名](以下「選手」という)とを、本契約の当事者として以下の各条項を含む・・・・・・年度野球選手契約を締結する。第2条 (目的)
選手がプロフェッショナル野球選手として特殊技能による稼働を球団のために行なうことを、本契約の目的として球団は契約を申し込み、選手はこの申し込みを承諾する。
第1条と第2条は、契約の当事者及び目的という契約書の冒頭に定められる一般的な内容が記載されています。
第3条 (参稼報酬)
球団は選手にたいし、選手の2月1日から11月30日までの間の稼働にたいする参稼報酬として金・・・・・・円(消費税及び地方消費税別途)を次の方法で支払う。契約が2月1日以後に締結された場合、2月1日から契約締結の前日まで1日につき前項の参稼報酬の300分の1に消費税及び地方消費税を加算した金額を減額する。ただし期間中に消費税率の改定があった場合、消費税額は新たに適用される消費税率により計算する。
プロ野球選手の球団との契約期間は、シーズン開始前の春季キャンプ初日である2月1日から日本シリーズ終了後の11月30日までとされています。
そのため、キャンプイン初日までに契約更改が終わらなかった場合、法的にはチームとの契約がない状態のままキャンプに参加することになります(いわゆる自費参加)。そして、契約日数が減る分、契約日数がフルある場合と比較して、形式的には選手の年俸報酬が減ることになってしまいます。
年俸については球団との交渉になるため、実際に不利益となるかは別ですが、選手としてキャンプイン前に契約を終わらせたいという気持ちを抱く一つの要因になるかとは思います。
第4条 (野球活動) 選手は・・・・・・年度の球団のトレーニング、非公式試合、年度連盟選手権試合ならびに球団が指定する試合に参稼し、年度連盟選手権試合に選手権を獲得したときは日本選手権シリーズ試合に参稼し、また選手がオールスター試合に選抜されたときはこれに参稼することを承諾する。
選手には、シーズン、日本シリーズ、オールスターはもちろん、その他球団が指定する試合へ参加する義務があります。
第5条 (非公式試合の報酬) 選手が年度連盟選手権試合終了の日から本契約満了の日までの期間に球団の非公式試合に参稼するとき、球団はその試合による純利益金の40パーセントを超えない報酬を参稼全員に割り当て、選手はその分配金を受け取る。
日本シリーズ終了後の非公式試合に参加する際に、選手が分配金をもらえることが記載されています。
第6条 (支払の限界) 選手は実費支弁の場合を除き本契約に約定された以外の報酬をその名目のいかんを問わず球団が支払わないことを承諾する。ただし、日本プロフェッショナル野球協約において認容される場合はこの限りでない。
球団に支払を義務づけられるのは、統一契約書に記載された年俸等だけであるということが確認的に記載されています。
第7条 (事故減額) 選手がコミッショナーの制裁、あるいは本契約にもとづく稼働に直接原因しない傷病等、自己の責に帰すべき事由によって野球活動を休止する場合、球団は野球活動休止1日につき第3条の参稼報酬の300分の1に消費税及び地方消費税を加算した金額を減額することができる。ただし、傷病による休止が引き続き40日を超えない場合はこの限りでない。
選手が、所属選手としての活動以外が理由で活動できなくなった場合で、その期間が40日以上になった場合、選手の年俸が減額されることになります。刑事事件を起こして、逮捕・勾留された場合等はこれに該当します。
第8条 (用具) 野球試合およびトレーニングに要する野球用具のうち、球団はボールを負担し、また常に2種類のユニホーム(ジャンパーを含み靴を除く)を選手に貸与する。選手はその他の必要なすべての用具を自弁する。
トレーニングに要する用具について、ボールと、2種類のユニフォーム(靴は除く)を球団が選手に貸与し、それ以外の用具については選手個人が用意することとされています。
個人負担の分については、実際には、球団とつながりの深いメーカーや、個人としてメーカーとスポンサー・用具提供契約を締結しているのが一般的です。
第9条 (費用の負担) 選手が球団のために旅行する期間、球団はその交通費、食費、宿泊料を負担する。
遠征にかかる交通費、食費、宿泊料をはチームが負担することとされています。
第10条 (治療費) 選手が本契約にもとづく稼働に直接原因する障害または病気に罹り医師の治療を必要とするとき、球団はその費用を負担する。
球団としての活動の中で負った怪我等の治療費については、球団が負担するとされています。
第11条 (障害補償) 選手が本契約にもとづく稼動に直接原因として死亡した場合、球団は補償金5000万円を法の定める選手の相続人に支払う。また、選手が負傷し、あるいは疾病にかかり後遺障害がある場合、6000万円を限度としてその程度に応じ補償金を選手に支払う。
身体障害の程度を14等級に区分し、その補償金額を次の通りとする。
第1級 6,000万円 第2級 5,400万円 第3級 4,800万円
第4級 4,200万円 第5級 3,600万円 第6級 3,000万円
第7級 2,520万円 第8級 2,120万円 第9級 1,640万円
第10級1,200万円 第11級 920万円 第12級 600万円
第13級 440万円 第14級 240万円
等級は労働基準法施行規則第40条「障害補償における障害の等級」に規定された等級と同じ。
球団の活動の中で、選手が死亡したり、後遺症が残る怪我を負った場合、補償金が支給するとされています。選手は、基本的には個人事業主の立場ですが(なお、選手会は労働組合法に言う組合に当たるとはされています)、故障等については、労災(労働災害)の考えが採りいれられています。
第12条 (健康診断) 選手は野球活動を妨げ害するような肉体的、または精神的欠陥を持たないことを表明し、球団の要求があれば健康診断書を提出することを承諾する。選手が診断書の提出を拒否するとき、球団は選手の契約違反と見做し適当な処置をとることができる。
選手は、球団から要求があれば診断書等を提出しなければならないとされています。実際には、故障を逐一球団には報告していない選手がほとんどだとは思いますが、逆に、球団から診断書の提出等を求められた場合には応じなければなりません。
第13条 (能力の表明) 選手は野球選手として特殊の技能を所有することを表明する。本契約がこのような特殊の技能にかかわる故、本契約の故なき破棄は相手方にたいして重大な損害を与えるものであり、その損害賠償の請求に応じる義務のあることを選手と球団は承認する。
少し古い言葉づかいになっていますが、要するに、選手としてプレーできない重大な故障を抱えている場合等に、選手がこれを隠して契約を更新したりするのを禁止する目的の条項だと考えられます。
第14条 (トレーニングの怠慢) 選手が球団のトレーニングまたは非公式試合の参稼に際し、球団の指示に従わず監督の満足を得るに足るコンディションを整え得ないとき、球団の要求によりこれを調整しなければならない。この場合すべての費用を選手が負担することを承諾する。
選手が自らのコンディションを整える義務を負っていることが定められています。
第15条 (振興事業) 選手は野球本来の稼働のほか、球団および日本プロフェッショナル野球組織の行なう振興活動に協力することを承諾する。
選手は、野球をプレーする以外にも、球団やNPBが定める振興活動に参加しなければならないとされています。球団の活動についていえば、ファン感謝デー等がこれに当たると考えられます。
16条以下の解説は、後半に記載しています。
プロ野球選手、元サッカー日本代表選手等の個人・法人の顧問、トラブル相談等を多数取り扱う
著作:「アスリートを活用したマーケティングの広がりとRule40の緩和」(東京2020オリンピック・パラリンピックを巡る法的課題(日本スポーツ法学会編)
・一般社団法人スポーツキャリアアドバイザーズ 代表理事
・トップランナー法律事務所 代表弁護士(東京弁護士会所属)
・日本サッカー登録仲介人
・日本プロ野球選手会公認選手代理人
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