【本紹介】スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか
「スポーツ毒親 暴力・性虐待になぜわが子を差し出すのか 」著者島沢優子
タイトルどおり、スポーツをする子どもをもつ親の問題に焦点を当てた本です。
「自分が高校で全国大会に行けなかったので、子どもを行かせたいっていう思いしかなかった。だから、どれだけ厳しかろうが、たたかれようが、それくらいせな勝たれへんやろうって考えちゃったです。『ここでやるって決めたんだったらやり続けなさい。辞めるとかいったらあかんで』とお姉ちゃんに言いました」(24頁)
「本当なら親以外から怒られたときにメンタルがヘナヘナになるようじゃ、どんな環境でも強く生き残れなきゃって思ってました。そういう意味で、A監督の指導はピッタリやと。もうなんの迷いもなかったです。」「それと、やっぱり全国大会ですね。うちの子、全国大会に行った。それがステータスというか、スポーツをやらせてる子の親って少なからずあると思うんです。どの競技でも。全国レベルに自分の子が行った。『凄いやん』って言われたら、やっぱり嬉しい。自分がやった訳じゃないけど、なんか誇らしいというか。その誇らしい気持ちは今でもあります。え?全国大会に行ったら、子どもに良いこと?うーん。何がって言われたら、わからへんけど、全国大会に出るために頑張ったっていう自信とかですかね」(28頁)
これは、昭和の話ではなく、ほんの1・2年前にある親が話した内容です。人はどうしても自分の体験を過大評価してしまうため、それこそ昭和の教育を受けていた人が、30年以上経った現在も、昭和の価値観で子どもに接してしまっているということなのだと思います。もちろん、全ての親がそうなわけはありませんが、極めて例外的な事例というわけではないでしょう。
著者は、親がこのような認識を持つに至る理由について、以下の3つの理由を指摘しています。
①全国大会の魔力
②トラウマ性結びつき(暴力などのトラウマ体験を与える対象と、「離れたくない」と感じてしまう特殊な心理状況)
③生存者バイアス (あの指導を乗り越えたから、今の自分があるという親の思い込み)
もちろん、これらの要素もあると思いますが、そもそもの出発点として、親の側に子どもをどう育てるかの決定権があるかのような誤解があるのだと思います。自分の子どもについて熱くなってしまうという気持ちはわかります。ただ、例えば、教師が自分の子どもの教育については客観的にみることができずに苦労するという話はよく聞きますし、子どもに対する目線がおかしくなっていないか意識していく必要があると思います。
また、暴力等を受けて育った子供がどのように成長していくか、どのようなトラウマを負うリスクがあるかということについての理解が足りず、自分が乗り越えられたのだから、自分の子どもも乗り越えられるはずである、これぐらいは乗り越えないと将来苦労するはずだという、根拠のない勝手な思い込みをしているのだと思います。
以下、各章の内容をご紹介しますので、こういった問題に取り組んでいる方は、是非読まれることをおすすめします。
第2章 スポーツ毒親は判断力を失う「個人より組織」 口止め誓約書を書かせた親たち
およそ法的効果はないですが、指導者の批判は一切しないといった記載のある誓約書に署名させられたそうです。
第3章 スポーツ毒親はスルーする「強い主従関係の危険度」 性虐待に鈍感な親たち
最近はニュースでもみけるようになりましたが、特に男子が被害者の場合、被害者が声をあげる難しさを感じます。
第4章 スポーツ毒親は待てない「早期教育のリスク」不正に手を染める高校生ゴルファー
ミスショットの場合強く叱るが、ルール違反・マナー違反ではあまり叱らないという親が多いそうです。
第5章 スポーツ毒親は子を追い込む「発奮させる恐怖学習」少年球児をうつ状態にした父
私も見たことがありますが、アマチュアコーチが子どもに罵声を浴びせている光景は異常です。
第6章 スポーツ毒親のブラック掟「日本の負の縮図」少年野球当番問題
上級生の親が座るまで、下級生の親は座ってはいけない等、謎ルールが大量にあるようです。
この本についての対談をYouTubeに上げていますので、興味のある方は是非。
プロ野球選手、元サッカー日本代表選手等の個人・法人の顧問、トラブル相談等を多数取り扱う
著作:「アスリートを活用したマーケティングの広がりとRule40の緩和」(東京2020オリンピック・パラリンピックを巡る法的課題(日本スポーツ法学会編)
・一般社団法人スポーツキャリアアドバイザーズ 代表理事
・トップランナー法律事務所 代表弁護士(東京弁護士会所属)
・日本サッカー登録仲介人
・日本プロ野球選手会公認選手代理人
・日本スポーツ法学会会員