第26回日本スポーツ法学会に参加しました
先日、同志社大学新町キャンパスで開かれた第26回日本スポーツ法学会に参加してきましたので、その内容をご紹介します。
全体の構成は、午前中が弁護士・研究者等による自由なテーマの報告・発表、午後がシンポジウム「日本のスポーツとジェンダー 国際的視点から見た課題」でした。
報告・発表は、30分5コマで、3つの部屋で並行して進められていて、自分の興味のある話を聞きにいけるので、あっという間に終わったように感じました。
個人賠償責任保険、弁護士費用保険等の活用のすすめ
学会全体で参加者は弁護士が一番多く、自分の普段の業務につながる可能性があるからか、今回多くテーマにかかげられていたスポーツ事故が絡んだ研究発表に多めに参加者が集まっていました。
スポーツ事故に関する裁判例は、具体的な場面をイメージしやすいため、当事者の痛みが伝わってきます。
そして、スポーツの現場における事故に関する大きな問題は、通常、加害者側に故意がある場合等でない以上、どちらかに損害全額を負担させるという結果が望ましくはないという点です。その観点から、保険等による補償を充実させるべきだという話が何回かありました。
スポーツ事故の保険というと、スポーツ保険が一番に思いつきますが、クレジットカード等に附帯する個人賠償責任保険の加入を推進することが、一つの対処になるのではないかと思っています(実際、どこまでが保障されるかは事案によりますが)。保険料は月額数百円と低額であるものが多いため、特に頻繁にスポーツを行う方でまだ加入されていない方は、是非加入をおすすめします。
私も、子供が生まれてから、クレジットカードに附帯する個人賠償責任保険に加入しました。子供が体育やスポーツで、相手方・第三者に損害を負わせてしまうことを100%回避することは不可能だからです。本来は、スポーツをする私自身にもそのような可能性がある以上、加入すべきだったと考えています。
なお、最近では交通事故の関係で知名度が高まってきた弁護士費用保険ですが、自動車の保険に入っている方等であれば、スポーツ事故の場合にも適用されることがありますので、ご確認いただくといいかと思います。弁護士費用保険の適用範囲に関する日本弁護士連合会の参考ページを掲載しておきます。
→https://www.nichibenren.or.jp/library/ja/legal_aid/data/bengoshi_hiyou_insurance.pdf
体罰被害者の約半数が体罰の必要性を認めているという驚きの実態
個別の研究発表の中では、国士舘大学大学院の横山幸祐さんの発表の中に興味深い話がありました。
横山さんの発表には、都内の体育大学の2年生に対して、自らの高校時代の体罰の有無等について調査を行った結果の報告が含まれていました。その中に、体罰の被害学生に対する意識調査があり、被害学生の11%が「体罰が必要である」、37%が「体罰が多少必要である」という回答があったということです(なお、残りの52%が体罰不要という回答)。
実際に体罰を受けた約半数が、体罰が必要であると考えているのはかなりの驚きです。これが、平成も終わろうとしている現在でも日本で体罰がなくならない大きな要因の一つであると感じました。
体罰の必要性を認める回答は、体罰を受けた結果として成績が向上したと感じている面があるということのようですが、いうまでもなくこれは間違った考え方です。まず、体罰がなかったとしても、同様又はそれ以上の成績向上に至る可能性がありますし、何よりも、体罰を用いないでも成績を向上させる方法はいくらでもあるからです。また、スポーツでは特にいわゆる生存者バイアスがかかりやすく、体罰があったから成功したという人の意見が目立ちますが、体罰があったためにうまくいかなかった(競技をやめてしまった)という人も多数存在するはずです。指導者に適切な方法を用いる能力がないために、体罰という短絡的な方法を採用しているに過ぎません。選手が指導者の能力不足を原因として被害を受ける理由は何もありません。
この問題については、機会があるごとに発信していく必要があると感じています。
シンポジウム「日本のスポーツとジェンダー ~国際的視点からみた課題」
午後に行われたシンポジウムは、「日本のスポーツとジェンダー ~国際的視点からみた課題」というテーマで、元マラソン選手である河合香さん(リクルートで小出義雄元監督の指導を受けていた)や、弁護士、研究者等からの報告とディスカッションがありました。
2018年は、Me Too運動等も通じて、あらためて、ジェンダーの問題がクローズアップされましたが、スポーツの場では、一般の場よりもさらにジェンダーの問題が生じやすい環境にあるということに気づかされました。
また、セクハラに限らず、スポーツ界でハラスメントが生じる環境要因として、以下のものが挙げられていました。
・スポーツにおける勝者と敗者という構造
・エリート選手の崇拝
・暴力の存在の当然視
・選手の身体が道具化されていく(特に体のコンタクトが多いスポーツ)
・組織内ではコーチ保護傾向がみられる
すぐに全てを変えていくことは難しいですが、少しずつでもこれらを変えていく運動・情報発信を行う必要性を感じました。
プロ野球選手、元サッカー日本代表選手等の個人・法人の顧問、トラブル相談等を多数取り扱う
著作:「アスリートを活用したマーケティングの広がりとRule40の緩和」(東京2020オリンピック・パラリンピックを巡る法的課題(日本スポーツ法学会編)
・一般社団法人スポーツキャリアアドバイザーズ 代表理事
・トップランナー法律事務所 代表弁護士(東京弁護士会所属)
・日本サッカー登録仲介人
・日本プロ野球選手会公認選手代理人
・日本スポーツ法学会会員