西野元監督から聞いた指導者のモチベーターとしての重要性
先日、FIFA W杯ロシア大会で日本代表監督を務めた西野元監督の講演を聞いてきましたので、その内容についてご紹介します。
(画像作成:公益社団法人東京青年会議所)
この講演は「組織力を強化して逆境を突破する」というテーマで、西野元監督に対してロシアW杯に向けてどのようにチームを作り上げていったのかという観点から4つの質問をし、西野元監督がそれに対して回答するという流れで、話を聞くことができました。
大きく印象に残ったのは、西野元監督が就任当初のネガティブな雰囲気(日本代表の成績がふるわなかったこと、本大会直前の監督交代に懐疑的な目が向けられたいたこと等)を変える必要性を強く認識し、控えメンバーへの声かけ・毎日の握手等を通じて、チームとしての結束力を強めることに重きをおいていたということでした。
1 共通目的の設定
まず、1つ目の質問は、選手に対して、どのような共通の目的・意識づけを行ったかというものでした。
西野元監督の回答は、スクリーンに流されたW杯予選リーグ第3戦ポーランド戦の前のミーティングで選手に見せたモチベーションビデオで表示されていた文字からも明らかでしたが、ブラジルW杯のリベンジ・雪辱というのを1つの目標にかかげたということでした。
なお、23人の代表選手の中には、ブラジルW杯を経験していない選手も含まれてはいましたが、1戦目のコロンビア戦の先発11人のうち、5人が4年前のブラジルW杯の最終戦となったコロンビア戦でも先発していましたし、残り6名のうち2名もブラジルW杯の代表メンバーに入っていました。
長友選手が明確に、コロンビアへのリベンジについてtweetしていたとおり、多くの選手がブラジルW杯の雪辱を期すという思いでいたことがうかがわれます。
選手選考もこの目的設定から遡ってやったとなると納得がいきます。おじさんジャパンと言われようが、このW杯にかけるという意識を強くもつ、年齢層が高め選手を選んだのが、結果としてチームの躍進につながったのだと思います。
2 貢献意欲の醸成
2つ目の質問は、23人の代表選手全員に対して、チームへ貢献するという意識づけをどのように行ったかというものでした。
西野元監督の回答は、既に選手側で、自分個人の力では限界があり、日本はチームとしてやっていかなければダメだという認識をもっていたのでやりやすかったということでした。皮肉な話ですが、個人として、世界レベルで戦える選手に乏しかったことが結束力の醸成につながった面があるということだと思います。
その意味では、W杯で自分が活躍したいという意欲をもちがちな、若い選手をあまり選ばなかったのも、こういった視点からだったのかもしれません。
3 意思疎通の確保
3つ目の質問は、個々の選手とどのように意思疎通を行ったかというものでした。
これに対する西野元監督の回答は、選手個々人に対して、全員を戦力として考えている、おまえがいなければダメなんだということを伝えていったと言っていました。
西野元監督は、先発メンバー11人はモチベーションを高めていきやすいが、先発外12人目以降の選手がモチベーションを維持することが難しいことをよくわかっていたために、ミーティング等では、特に12人目以降の選手を名指しで指名して意見を言わせたりしていたとのことです。
本大会前、わずか3試合しかなかった練習試合で、メンバーも戦い方も固定しなかったのも、この観点からであるとのことでした。
もっとも、攻撃的なサッカーを志向する西野さんの考えと逆に、守備的にいくべきであると考えている選手も当然おり、そこもしっかりと話しあっていくことでうまくバランスをとっていたのだと感心しました。
4 チームの組織力の強化
4つ目の質問は、監督交代から続いていた暗い雰囲気・チーム状況について、どのように化学反応を起こしていったかというものでした。
西野元監督の回答は、練習方法・戦術等で魔法のように雰囲気を一変させる方法がない以上、大事なのは選手たちの顔色をしっかり把握していくこと、というものでした。
西野元監督は、毎日、全選手と握手し、選手同士も握手するようにしていたとのことです。握手という古典的な方法ですが、顔色がはっきりわかる近い距離で握手をするということが、メンタルを含む選手の状態を把握するのに適しているという判断だったのだと思います。
W杯は、普段の試合と異なり、選手にはとんでもないプレッシャーがかかっているので、それを緩和してあげるのが大事であると考えていたとのことで、こういった対応ができた点は、やはり監督に日本人を選んだメリットであったと思います。日本人のメンタリティを真に理解していないと、W杯という大舞台に挑む日本人のメンタリティがどのようなものであるかを正確に理解することはできないでしょう。
最後に、特別に、W杯予選リーグ3戦目ポーランド戦の前にミーティングで選手たちにみせた、いわゆるモチベーションビデオが上映されました。
内容としては、主に1・2戦目のハイライトシーンをまとめたものでしたが、特徴的だったのは、「ブラジルW杯のリベンジ・雪辱」という言葉を表示したこと、また、日本でテレビを見ているサポーターが祈る姿や得点が入って喜ぶサポーターの姿がうつったシーンを多くいれ、「我々の夢は国民の夢」「我々は国民の希望」といった士気をあげる言葉が多くいれられていることでした。
5 まとめ
サッカーが好きな私には、大変興味深い講演でした。また、こういったものに参加した際には、紹介させていただきます。
プロ野球選手、元サッカー日本代表選手等の個人・法人の顧問、トラブル相談等を多数取り扱う
著作:「アスリートを活用したマーケティングの広がりとRule40の緩和」(東京2020オリンピック・パラリンピックを巡る法的課題(日本スポーツ法学会編)
・一般社団法人スポーツキャリアアドバイザーズ 代表理事
・トップランナー法律事務所 代表弁護士(東京弁護士会所属)
・日本サッカー登録仲介人
・日本プロ野球選手会公認選手代理人
・日本スポーツ法学会会員