アスリートとお金の問題 ~バドミントン協会の例~

アスリートとお金の問題 ~バドミントン協会の例~

先日、女子バドミントンのトップ選手である奥原選手がtwitter上で、賞金の10%をバドミントン協会が徴収していることについて、疑問を投げかける投稿をしていました。


この点について、考えてみたいと思います。

目次
1 バドミントン協会の財政状況
2 協会の収入が適切かという問題
(1)奥原選手の指摘
(2)協会が費用の一部を負担している以上、収入も一部協会に帰属すべきという考え
(3)バドミントンの普及という観点からは?

1 バドミントン協会の財政状況について
(1)関連して、まずは公表されているバドミントン協会の財政状況をみてみます。
公益社団法人日本バドミントン協会 事業・財務状況
本日時点で公開されている中で直近の平成30年4月1日-平成31年3月31日期の貸借対照表等から遡って5年分、平成26年からみてみると、バドミントン協会の収入は約8億円→約10億円→約10億円→約15億円→約19億円と推移しています。
かなり収入が増えていますが、5年前と比べて補助金等が1億5000万円増える等、東京オリンピックに向けた強化の影響が大きいと思われます。
(2)協会の取り分はいくらか
選手の賞金に関する協会の取り分については、公表されている資料において明記はされていないため、参考になる記載から推測するしかありません。
具体的には、「未払金」欄の、「ナショナルチーム他」「競技用具補助費(獲得賞金の90%)という記載です(リンク先9頁)。

「未払金」欄の、「ナショナルチーム他」「競技用具補助費(獲得賞金の90%)という記載

これは、大会の主催者からの賞金がバドミントン協会の口座に入金され、そのうち、バドミントン協会の取り分10%を除いた90%を選手に支払うべき状態にあるが、年に1度といった選手へ支払うタイミングがまだきていないため、未払いとなっている、ということだと思われます。
すなわち、当該項目の2億9587万9347円という金額から逆算すると、選手達の賞金額は3億2875万4,830円であり、その10%である3287万5483円が協会の取分になっているということになります。
選手への支払のタイミングが年に1回なのか年に2回なのかによって、1年間での協会の取分が大きく変わりますが、桃田選手の賞金が約5000万円であるということからすると、選手への支払は年に1回とされていて、1年間での協会の取り分が3287万5483円であったのだと思います。

2 協会の収入とすることが適切かという問題
(1)奥原選手の指摘
奥原選手のツイートでは、①協会の取り分の使い途をはっきりさせて欲しい、という点と、②その上限を定めるべきではないか、という2つの点についての言及がされています。
奥原選手の立場としては、はっきり言いづらい部分もありこのような表現になっているかと思いますが、この問題の本当の問題点は、選手たちが勝利して得た賞金の10%を協会が持っていくのが適切かという問題かと思います。
(2)協会が費用の一部を負担している以上、収入も一部協会に帰属すべきという考え方
この点について、1つの考え方としては、バドミントン協会が選手のために負担している費用があるのであれば、いわばお互い様なので、選手も一定額を協会に納めるべきだ、という考え方です。バドミントン協会がどのような費用を負担しているか明確に公表はされていませんが、何らかの費用を負担している可能性はあると思われます。
なお、他の競技団体でいえば、全日本柔道連盟の競技者規定では以下のとおり、協会と選手の賞金の分配が定められています(全日本柔道連盟競技者規定)。これは、全日本柔道連盟が一定の費用を負担しているからであると思われます。

全日本柔道連盟競技者規定
(分配)
第13条
本連盟は、支払いを受けた賞金又は出場報酬について以下に定める基準により、当該競技者及び役員等に強化活動費として分配する。
<賞金>
個人の場合、:本連盟50%、当該競技者50%
団体の場合、:本連盟50%、50%を当該競技者・役員等で均等分配

(3)バドミントンの普及という観点からは?

もっとも、上記のとおり、10億円以上の収入があるバドミントン協会において、選手から合計約3000万円を集めることにより選手の経済的な満足度を下げることが、日本のバドミントン界にとって望ましいのかということは検討した方がよいと思います。
事情は異なりますが、今、若い女子プロゴルファーが多数活躍しているのは、もちろん、宮里藍さんや勝みなみ選手といった若いうちからツアーで優勝してきた人達の影響や協会の支援が大きいとは思いますが、プロゴルファーになることが、女性がスポーツでお金を稼ぐ方法として優れており、それを大きな要因として多くの選手の親やコーチが力を注いでいる、という面が多分にあると思います。
一方で、残念ながら、今、日本のバドミントンの選手で、現役中に、将来の生活に心配しないだけのお金を稼ぎきれる人は多くはないかと思います。
日本のスポーツ界ではお金のことを言うのがはばかれる空気がありますが、バドミントン選手として活躍することで少しでもお金を稼ぎやすくなるということになれば、それはバドミントンの競技人口の増加を後押しする一つの要因になるでしょうし、それがひいては、日本バドミントン協会、日本のバドミントン界全体の発展に寄与するのは間違いないでしょう。

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