Bリーグ選手統一契約書の解説(後半)

Bリーグ選手統一契約書の解説(後半)

Bリーグが作成しているクラブと選手との間の統一契約書(2021年シーズンのもの)の解説の後半です。
なお、Jリーグが作成している統一契約書の内容と同じ内容の部分が多く、Jリーグの統一契約書を元に作成されたものと思われます。

第1条〔誠実義務〕
第2条〔履行義務〕
第3条〔禁止事項〕
第4条〔報酬〕
第5条〔費用の負担〕
第6条〔休暇〕
第7条〔疾病および傷害〕     以上、前回解説
第8条 〔選手の肖像等の使用〕  以下、今回解説
第9条 〔クラブによる契約解除〕
第10 条 〔選手による契約解除〕
第11 条 〔制 裁〕
第12 条 〔有効期間および更新手続き〕
第13 条 〔修 正〕
第14 条 〔準拠法〕
第15 条 〔紛争の解決〕
第16 条 〔保 管〕

第8条〔選手の肖像等の使用〕
(1)  本契約の義務履行に関する選手の肖像、映像、氏名等(以下「選手の肖像等」という)を報道・放送において使用することについて、選手は何ら権利を有しない。
(2)  選手は、クラブから指名を受けた場合、クラブ、協会およびリーグ等の広告宣伝・広報・プロモーション活動(以下「広告宣伝等」という)に原則として無償で協力しなければならない。
(3)  クラブは、選手の肖像等を利用してマーチャンダイジング(商品化)を自ら行う権利を有し、また協会、リーグその他の第三者に対して、その権利を許諾することができる。
(4)  選手は、クラブの指示に拠らずに次の各号のいずれかに該当する行為を行おうとするときは、事前にクラブの書面による承諾を得なければならない。
① テレビ・ラジオ番組、イベントへの出演
② 選手の肖像等の使用およびその許諾(インターネットを含む)
③ 新聞・雑誌取材への応諾 ④  第三者の広告宣伝等への関与
(5)  第3項において、選手個人単独の肖像等を利用した商品を製造し、有償で頒布する場合、および前項各号の場合の対価の分配は、クラブと選手が別途協議して定める。
(6)  第1項、第3項および第5項の規定は、本契約期間の満了又は終了後であっても、本契約期間中の選手の肖像等が使用される場合に限り、当該使用との関係ではなお有効に存続するものとする。

第8条は、選手の肖像権等に関して定めており、第1項から第3項ではクラブが選手の競技活動に関連する肖像権を管理する権限を有しており、選手がクラブの広告宣伝に協力しなければならないことを定めています。
また、第4項では選手がマスコミ等の取材に対応するのにも、事前の書面の承諾が必要とされていますが、これだけSNSが発展してきた現在では、現実に即した内容とはいえないでしょう。
なお、選手も、クラブ所属の選手である前に一個人ですので、選手の私的な活動に制約が及ばないのは当然です。昨今では、この私的な活動であるのか競技に関連する活動であるのかといった点が、あいまいな場面が多くなってきています。
Jリーグの統一契約書と比較すると第6項が追加されており、契約終了後でも、クラブが選手の肖像等を使用することができるとされています。クラブとしては、過去の練習等の映像(当然、契約が終了した選手も映っています)を自由に使えるということになっています。
なお、Jリーグの統一契約書に記載されていないとしても、Jリーガーの皆さんとしても、所属期間中の肖像については自由に使われることを容認していたと推認されますので、Jリーグのクラブも同様に過去の肖像等を使うことは認められると思われます。
もっとも、公開されることにより一般人であれば精神的苦痛を感じるような映り方をしてる肖像等をクラブが無断で利用した場合に、クラブが一切責任を負わないかというと、別問題であると思われます。

第9条〔クラブによる契約解除〕
次の各号のいずれかに該当する事由が選手において発生した場合、クラブは、選手に対し書面で通知することにより、本契約を直ちに解除することができる。なお、第4号または第5号の薬物検査が本契約締結後選手登録前に行われるものであったときは、クラブは、選手に対して本契約に基づき既払いの報酬の一切の返還を求めることができる。
①  本契約の定めに違反した場合において、クラブが改善の勧告をしたにもかかわらず、これを拒絶または無視したとき
②  疾病または傷害によりバスケットボール選手としての運動能力を永久的に喪失したとき
③  刑罰法規に抵触する行為を行ったとき
④  協会およびリーグの指定する薬物検査の受検を拒絶したとき
⑤  協会およびリーグの指定する薬物検査において、陽性結果が確定したとき
⑥  自らの責に帰すべき事由により、6ケ月以上の試合出場停止処分を受けたとき
⑦  クラブの秩序風紀を著しく乱したとき
⑧  協会のアンチ・ドーピング規程に違反したとき

第9条は、クラブの側から、選手との契約が解除できる場面が定めています。
昨今、いわゆる不祥事が起きた場合にこの条文により契約が解除されています。
但し、「刑罰法規に抵触する行為を行ったとき」というのは、本来、裁判所で判決が確定しない限り明らかにならないはずですので、逮捕された時点で、契約を解除するというのは適切はありません。
また、「クラブの秩序風紀を著しく乱したとき」というのは極めて抽象的な表現であり、解除可能な場合が不明瞭です。例えば、私生活の行動について炎上した場合等に、直ちにこれらの規定によりクラブ側が容易に契約を解除できると考えることには、疑問があります。

なお、Jリーグの統一契約書と比較すると、ドーピングに関する条項が追加・明記されています。

第 10 条 〔選手による契約解除〕
(1)  次の各号のいずれかに該当する事由がクラブにおいて発生した場合、選手は、クラブに対し書面で通知することにより、本契約を直ちに解除することができる。
①  本契約に基づく報酬等の支払いを約定日から14日を超えて履行しないとき
②  協会およびリーグが出場を義務付ける試合に正当な理由なく連続して3試合以上出場しなかったとき
③  リーグから除名されたとき
(2)  前項に基づき本契約を解除した選手は、本契約の残存期間分の基本報酬を受け取ることができる。

第10条は、選手の側からクラブとの契約を解除できる場面を定めています。報酬(いわゆる選手の給料)が14日支払いが遅れると直ちに契約を解除できるとされていますので、この点は、選手の権利が十分に守られています。

第 11 条 〔制 裁〕
選手につき次の各号のいずれかに該当する事由が発生した場合、クラブは、選手に対し、戒告もしくは制裁金またはこれらの双方を課すことができる。
①  出場した試合において警告、退場または出場停止の処分を受けたとき
②  クラブの指示命令に従わなかったとき
③  クラブの秩序風紀を乱したとき
④  刑罰法規に抵触する行為を行ったとき
⑤  協会およびリーグの指定する薬物検査の受検を拒絶したとき
⑥  協会およびリーグの指定する薬物検査において、陽性結果が確定したとき
⑦  協会のアンチ・ドーピング規程に違反したとき

第11条には、クラブが選手にいわゆる罰金を科したりすることができる場合が定められています。
なお、Jリーグの統一契約書と比較すると、ドーピングに関する条項が追加・明記されています。

第 12 条 〔有効期間および更新手続き〕
(1)  本契約の有効期間は、___年___月___日から___年___月 ___日までとする。
(2)  クラブは、契約更新を行う場合、リーグの規程に定められた期限までに、選手に対し更新に関する通知を書面により行わなければならない。
(3)  前項の通知を怠った場合、クラブには契約を更新する意思がないものとみなし、選手はクラブに対し、自由交渉選手リストへの登録を請求することができ、クラブはこれに応じなければならない。

第12条は、クラブが契約を更新するかどうか決めるのを引き延ばすことにより、選手の移籍の機会が奪われてしまうことがないように、クラブが契約を更新できる期限が定められています。

第 13 条 〔修 正〕
本契約は、クラブおよび選手の署名または押印ある文書によってのみ修正され得るものとし、口頭による修正は効力を持たないものとする。
第 14 条 〔準拠法〕
本契約は、日本法によって解釈されるものとする

第13条及び第14条は、クラブと選手間の契約に限らず、一般的な契約でもよく定められている、契約内容を変更する場合には書面によること、日本の法律に従って契約を解釈することが定めています。

第 15 条 〔紛争の解決〕
① 本契約の解釈または本契約の履行に関してクラブと選手との間に紛争が生じたときは、クラブおよび選手が、その都度、誠意をもって協議の上解決する。
② 前項の協議を申し入れた後 30 日を経過しても紛争が解決しないときは、クラブまたは選手は、リーグ等または協会の規程の定めにより、リーグ等または協会に紛争解決を求めることができる。

第15条は、選手とクラブの間で紛争になった場合に、協議の上、Jリーグが定めるルールに従って紛争解決を図ることを定めています。
もっとも、そもそも、選手の契約期間は一般的に短い以上、クラブと紛争になると、それ以降、契約を更新してもらえないという不利益を被ることが容易に想定されますので、選手の側からクラブへ様々な要求を通していくのには困難な面があります。

第16条〔保管〕 本契約書は同時に正本2通を作成し、クラブの代表者及び選手が署名し、それぞれ1通ずつを保管する。

契約書の作成及び保管の方法について、定めています。
コロナウィルスの感染拡大化においては、直接の面談はクラブにとってリスクともなりうるところであり、多くの企業で導入され始めている電子契約の仕組を積極的に導入する方向で進むべきだと考えます。

以上

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