高校の部活動での指導者の行為について、パワハラに当たる等として損害賠償責任が認められた裁判例
スポーツ業界において、選手への指導を厳しくやるのが当然である、という日本で広くひろまっている考え方は、特に若い世代選手への指導方法として大きな問題点があると考えられます。今回は、高校の部活動における指導者の行為について、裁判所でパワハラとして認定されて損害賠償責任が認められた事案をご紹介します。
目次
1 当事者
2 被害生徒側が問題視した指導者の行為、結論
3 裁判所の判断の理由
4 選手側が採るべき行動
1 当事者
・私立高校空手部の顧問教諭・・・元世界王者
ナショナルチームのコーチ経験・高校の監督として全国制覇の実績あり
・被害生徒A
・被害生徒B
・顧問教諭の雇用者である私立高校を運営する学校法人
2 被害生徒側が問題視した指導者の行為論
損害賠償が認められたもの○、認められなかったものに×
(1)被害生徒A
賠償×①合理的理由のない団体戦への不起用
賠償○②OGらによる酒席での威圧的指導の黙認
賠償○③不合理な合同練習への参加禁止
賠償○④インターハイ予選本選での差別
賠償○⑤退部届の強要
賠償×⑥大学推薦の不当拒否
賠償○⑦大学推薦に関する説明義務違反
(2)被害生徒B・・・被害生徒Aと同郷で友人
賠償○ ⑧合同練習への参加禁止
賠償× ⑨退寮の強要
3 裁判所の判断の理由
(1)指導者の裁量の範囲内の行為として、合理的なものといえるかがポイント
この件では、指導者による直接的な暴力や暴言といった犯罪にも該当しうるような行為は問題となっておらず、指導者にある程度、裁量が与えられているような行為が問題となっています。
そのため、裁判官は、指導者が指導等の一環として行う行為として色々な方法がある中から、指導者に選択する裁量がある点を考慮して判断しています。
もっとも、分かりやすいものは、①合理的理由のない団体戦への不起用、です。指導者が嫌いであったために選抜メンバーに選ばれなかったということは、事実としてはそれなりにあることだとは思います。
しかし、例えば、100m走といった誰が見ても明確に実力の優劣がつけられる競技でない限り、本当に指導者の好き嫌いで選抜メンバーとして選ばれなかったのかどうかはわかりません。そもそも、明確に優劣がつかない競技においては、その選手の性格等も含めた、様々な事情を考慮して、メンバーを選抜するのは、ある意味当然といえます。
そのため、団体戦への起用については、指導者の賠償責任が否定されています。
(2)高校における部活動という事情
また、指導者の指導方法に裁量があるといっても、一方で、私立高校という教育の場においては、生徒側の教育を受ける権利にも配慮する必要があります。
例えば、③不合理な合同練習への参加禁止、という問題については、問題行動を行った生徒に一時的に参加させないといった対応は許容されるとしても、部活動に参加すること自体は認められてしかるべきです。裁判官は、この点も考慮して、長期にわたり部活動への参加する禁止した行為は不当であるという判断をしています。
4 選手側が採るべき対応
選手としては、これはおかしいと思うような境遇におかれてしまうこともあるかと思います。
その場合の対応としては、まずは選手仲間等いった身近な知り合いから、仲間うちで相談しにくいということであれば相談しやすい知人まで幅広い範囲で相談されることをおすすめします。
SNS等がこれだけ発達してきている現状では、本当に問題となるべき状況が世間に知られれば、それが改善に向かうきっかけになることもあります。
このコラムを読んで、相談されたいと思った選手の方は、遠慮なく相談フォーム等から、ご相談ください。
※裁判例の出典 大阪地方裁判所平成29年6月13日判決(判例タイムズ1451号223頁)
プロ野球選手、元サッカー日本代表選手等の個人・法人の顧問、トラブル相談等を多数取り扱う
著作:「アスリートを活用したマーケティングの広がりとRule40の緩和」(東京2020オリンピック・パラリンピックを巡る法的課題(日本スポーツ法学会編)
・一般社団法人スポーツキャリアアドバイザーズ 代表理事
・トップランナー法律事務所 代表弁護士(東京弁護士会所属)
・日本サッカー登録仲介人
・日本プロ野球選手会公認選手代理人
・日本スポーツ法学会会員